大型トラックの盗難被害は、世界各地で深刻化しています。被害を未然に防ぐには、実効性のある防犯対策を知り、導入することが欠かせません。本記事では、世界で報告されている盗難事例と実効性のある盗難対策を整理しました。記事を読むことで、自社の車両管理に役立つ実践的なヒントが得られるでしょう。
世界における大型トラック盗難の現状

「あれ、車両がない」と気づいたときにはすでに遅かった。
大型トラックを狙った犯行は世界各地で深刻化しており、手口はますます巧妙化し、被害額も拡大の一途をたどっています。
北米やヨーロッパ、そして日本を含むアジアでも同様の被害が報告されており、盗難対策は業界全体の重要課題となっています。
各国で報告されている実際の被害や盗難手口を紹介しつつ、ドライバー・企業双方にとって有効な最新の「盗難対策」について考察していきます。
北米:貨物盗難が過去最高水準に到達、なりすまし詐欺やネット経由の新たな手口も
北米では貨物の盗難が史上最悪の水準に達している状況です。2024年にはアメリカとカナダで3,625件の盗難が発生し、前年比27%も増加しました。盗難1件当たりの平均被害額は約20万ドルを超える深刻な状況となっています。
とくに注目すべきは犯行手口の変化です。従来の物理的な盗難に加え、運輸当局の登録情報をハッキングして偽の運送業者になりすます詐欺など、巧妙な手口が急増しています。また、ハッキングなどの手口は2020年には全体の約8%でしたが、2024年には約30%にまで拡大しました。
ヨーロッパ:倉庫・休憩所での被害が増加、安全な駐車場の整備が急務
ヨーロッパでは、貨物盗難の発生場所として倉庫や休憩所・駐車場が大きな割合を占めており、安全対策が不十分なエリアでの被害が深刻化しています。輸送中だけでなく施設・駐車関連の盗難が目立つのが特徴的です。
対策としてイギリスでは2024年には政府と道路運送協会が協力し、1,650万ポンド(約33億円)を投資して駐車スペースや施設の改善に取り組む決定をしました。安全な駐車場の整備は、今後のヨーロッパにおける盗難対策の最重要課題といえるでしょう。
アジア:施設内での盗難と内部関与が深刻化
アジア地域では、貨物盗難の多くが倉庫や配送拠点といった施設内で発生しており、全体の約半数を占めると報告されています。続いて、車両からの盗難や強奪も一定数見られ、地域によって手口の傾向に差があります。
国別ではインドが突出して多く、アジア全体の過半数を占めるほか、インドネシアや中国でも被害が報告されています。さらに特徴的なのは内部関係者の関与が大きい点で、記録された盗難の4分の1以上が従業員や運転手に関連していました。
日本:警察庁が警鐘を鳴らす大型トラック盗難の現状
日本でも大型トラックの盗難は深刻な問題となっており、警察庁は事業者に対し防犯対策の徹底を呼びかけています。被害車両の多くはキーを抜いた状態でも盗難に遭っており、従来の鍵だけでは十分ではないことが明らかです。
全国で発生する自動車盗難のうち貨物車が約34.5%を占めるとされ、盗まれた車両はヤードでの違法解体や海外への不正輸出に利用されています。こうした犯罪は組織的に行われ、収益が反社会勢力の資金源となるケースも少なくありません。
犯罪に狙われてしまうケースとは?
大型トラックが標的となるケースを分析すると、発生場所と犯行手口に特徴が見えてきます。
ドイツの保険会社 Munich REと英国規格協会 BSIが共同で作成した国際的な調査データによれば、盗難の発生場所としてもっとも多いのは輸送中で、全体の 41%を占めています。次いで倉庫が21%、そのほか工場や駐車場などでの件数はそれよりも少ない割合にとどまっています。このことから、移動中は監視の目が行き届きにくく、犯行の標的になりやすいことがうかがえます。
一方、犯行手口では 強奪が最も多く21%、続いて車両そのものの盗難が20%、その他の手口が18%、施設からの盗難が16%という結果でした。
このように、トラック輸送は発生場所・犯行手口の両面で盗難リスクが高く、特に走行中や停車中の管理が重要であることがわかります。
大型トラック事業者が取るべき実効性ある盗難対策

犯罪は「運」に任せて防げるものではありません。
近年、トラックや積荷を狙った盗難は巧妙化・組織化が進み、物流業界にとって大きな脅威となっています。
こうした状況に対応するためには、ドライバー任せの警戒だけでは不十分です。車両・積荷・駐車場所・運行管理など、複数の視点から防犯を“設計”する必要があります。
ここからは、実効性ある盗難対策を具体的に解説していきます。
複数の防犯アイテムを掛け合わせた対策
近年のトラック盗難は組織的で手口も高度化しており、単独の対策では突破されやすいのが現実です。そのため、「二重三重の防御」を意識することが欠かせません。
効果的な例としては、駐車スペースの管理と車両固定を組み合わせる方法があります。たとえば、敷地の出入口は必ず施錠し、車両にはハンドルロックやイモビライザーを取り付けるといった対策です。
複数の対策を重ねることで犯行に必要な時間を大幅に引き延ばすことができ、結果として盗難を未然に防ぐ可能性が高まります。
ハンドルロック・ホイールロックによる“見せる抑止力”
物理的なロック装置は、取り付けるだけで「盗みにくい車両」であることを相手に示せるため、高い抑止効果が期待できます。
盗難犯が狙う際に重視する要素のひとつが「どれだけ短時間で車両を動かせるか」です。そこで、目に見えるハンドルロックやホイールロックは、犯行をためらわせる心理的な効果を発揮します。
特に、特殊合金で切断に時間がかかるハンドルロックや、タイヤの回転を防ぐホイールロックは有効です。さらに、複数のロックを組み合わせれば「手を出しにくい車両」として認識され、防犯効果を一層高められるでしょう。
照明・監視設備で駐車環境の安全性を高める
駐車環境の整備は、トラック盗難を防ぐうえで欠かせない重要な対策です。盗難の発生は車両の駐車場所に大きく左右され、特に無人で暗い駐車場は狙われやすい環境といえます。
自社の設備であれば、センサーライトや監視カメラの設置が基本となります。また、幹線道路沿いの無人駐車場は避け、有人管理の駐車場や、セキュリティ体制が整った商業施設・物流施設の駐車場を活用することも効果的です。
GPS機能でリアルタイム把握
GPS技術の活用は、万が一盗難が発生した際に迅速な対応を可能にする有効な対策です。車両の追跡や早期発見につながるため、各国で導入が進んでいます。保険会社によっては、GPS搭載車両を保険料割引の対象とするケースも見られます。
基本的な活用方法は、車両にGPSを設置して位置情報を常時監視することです。さらに、盗難防止に特化したGPSトラッカーであれば、車両が不正に動かされた際にスマートフォンへ即座に通知が届きます。
ドライバー教育による防犯意識の強化
防犯対策を効果的に機能させるには、ドライバーの日常の行動習慣も大きな役割を果たします。普段の行動が被害防止に直結するため、各国の警察機関や業界団体も基本行動の徹底を推奨しています。
教育内容の例としては、無人の場所や暗所での長時間駐車を避ける習慣づけ、不審な車両や人物を見かけた際の速やかな報告、荷物引き渡し時の身元確認の徹底などが挙げられます。
教育にかかるコストは比較的低い一方で、その効果は大きいのが特徴です。ドライバー採用時の教育や定期的なトレーニングに組み込むことが、安全性を継続的に高めるポイントとなります。
まとめ|大型トラックの盗難対策で被害を防ぎ、事業を守る
大型トラックの防犯対策について、世界の盗難事例から効果的な対策方法まで解説しました。
複数の防犯手法を組み合わせる多方面からのアプローチが最も重要です。また、物理的なロック装置や環境整備、GPS活用、ドライバー教育を総合的に実施することで被害を大幅に削減できます。
まずは自社の現状を見直し、段階的に盗難対策を強化して、大切な事業資産をしっかりと守りましょう。