大型EVトラックとは?世界で進む電動化の背景
大型EVトラックは、バッテリーと電気モーターで駆動する重貨物用トラックで、走行中のCO₂排出がゼロの「ゼロエミッション車両」です。構造がシンプルで可動部品が少ないため、メンテナンス頻度を低く抑えられます。
EVトラックの基本構造と特徴
大容量リチウムイオンバッテリーと高出力電気モーターが心臓部です。バッテリー容量は大型モデルで300〜600kWh程度が一般的です。回生ブレーキで減速時のエネルギーを回収できます。
なぜ今、物流業界でEV化が求められているのか
IEAによれば、重貨物輸送は輸送セクター全体の排出量の約40%を占めています。パリ協定以降、2030年や2050年に向けたカーボンニュートラル目標が設定され、輸送セクターのCO₂削減が喫緊の課題です。燃料コストの高騰も企業の意思決定に影響しています。
欧米・アジアで進む脱ディーゼル政策とその影響
欧州では2035年までに新車のCO₂排出ゼロを目指し、主要都市では超低排出ゾーンが設定されています。米国でもカリフォルニア州を中心に規制が進み、中国は世界最大のEVトラック市場を形成しています。
大型EVトラックの価格動向とコスト構造
EVトラック導入で多くの企業が最も気にするのが「価格」です。初期投資は高いですが、運用コストの低さが長期的なメリットをもたらします。
新車価格の目安:主要メーカーの比較
地域やメーカーによりますが、EUメーカーのEVトラックで約3,500万円〜6,500万円程度です。
バッテリー容量と価格の関係|航続距離とのトレードオフ
バッテリーは車両コストの約30〜40%を占めます。2024年時点で、バッテリーパックの平均価格は1kWhあたり115ドル(BEV用は97ドル/kWh)まで低下し、前年比20%の値下がりとなりました。2026年には100ドル/kWh以下、2030年には69ドル/kWhまで低下すると予測されています。
維持費・メンテナンスコストはディーゼル車より安い?
ICCT(国際クリーン交通委員会 ※1)の分析では、メンテナンスコストはディーゼル車の約40〜50%まで削減可能です。エンジンオイルやフィルター、排気系統が不要で、ブレーキパッドも回生ブレーキにより摩耗が少なくなります。総保有コスト(TCO)は、2030年までにディーゼル車を下回ると予測されています。
※1 ICCTは、2001年に設立された独立系の非営利研究組織です。世界中の輸送部門における環境性能の向上と気候変動対策を推進することを目的としています。
補助金・減税・リース制度を活用した導入シミュレーション
米国では購入時に税額控除が適用され、欧州でも購入費の一部を補助する制度が整備されています。日本においてはクリーンエネルギー自動車導入促進補助金があり、リース制度で初期投資を大幅に抑えられます。
EVトラック普及率の現状と世界的なトレンド

IEAによれば、2024年時点での世界の中・大型EVトラック販売台数は約9万台に達し、前年比約80%増加しました。地域ごとの普及状況には大きな差があります。
日本・欧州・北米・中国での普及状況
中国は約7万5,000台(世界シェア80%以上)で市場シェア4%超、欧州は約1万台超で商用車市場の1〜2%、北米は約1,700台で0.5%未満、日本は小型から中型を試験導入段階です。
AmazonやDHLなど導入企業の最新動向
Amazonは2万台以上のEVバンを運用し、DHLは2030年までに配送車両の60%を電動化。これらの企業はEVトラック導入を企業の環境戦略・ブランド価値向上の重要な要素と位置づけています。
市場拡大を支える技術革新(充電インフラ・バッテリー開発)
次世代の全固体電池やリン酸鉄リチウム(LFP)バッテリーの研究開発が進み、安全性やコスト効率の向上が期待されています。さらに、大型車両向けに設計されたメガワット級の超高速充電システム(MCS)も実用化に向けた動きが加速しており、短時間での大容量充電が可能になる見込みです。こうした技術革新により、EVトラックの運用現場での利便性と経済性が着実に高まってきています。
なぜ今、EVトラック導入企業が増えているのか
世界中で大型EVトラックを導入する企業が急増しています。その背景には、経済的・戦略的な複数の理由が存在します。
企業のESG経営・脱炭素戦略との整合性
ESG(環境・社会・ガバナンス)への取り組みは避けられないテーマです。EVトラックの導入は、企業が直接所有・管理する車両からのCO₂排出(Scope 1 ※2)を大幅に削減でき、カーボンニュートラル実現に向けた重要な施策となります。
燃料費高騰・メンテナンス削減による経済的メリット
原油価格高騰により、変動リスクを回避できるEVトラックへの関心が高まっています。バッテリー電気トラックのエネルギー効率は、ディーゼル車より約65%高いとされています。
取引先・消費者からの「環境配慮」要求への対応
サプライチェーン全体の間接排出(Scope 3 ※2)の開示が義務化されつつあり、物流委託先にもCO₂削減目標の達成が要求されるケースが増えています。EVトラック導入は契約獲得や継続の条件となっています。
※2 参考:Scope 1、2、3とは温室効果ガス排出量を算定·報告するために定められた国際的な基準「GHGプロトコル」で示されている分類方法。
Scope 1(直接排出): 企業が直接所有・管理する排出源からのCO₂排出(自社の車両、工場など)
Scope 2(間接排出): 購入した電力や熱などの使用に伴うCO₂排出
Scope 3(その他の間接排出): サプライチェーン全体での排出(輸送委託、原材料調達、製品使用など)
大型EVトラックの課題とデメリット
EVトラックには多くのメリットがある一方で、現時点ではいくつかの課題も存在します。導入を検討する際には、これらの制約を十分に理解しておく必要があります。
航続距離の制約と充電インフラの不足
現在の大型EVトラックの航続距離は、フル充電で200〜500km程度です。あるヨーロッパメーカーの最新モデルは600kmを実現していますが、ディーゼル車の1,000km以上と比較するとまだ差があります。欧州では幹線道路の75%以上で50km以内ごとに急速充電ステーションがありますが、米国では50%未満です。
導入コスト・バッテリー寿命の課題
バッテリー電気トラックの購入価格は、ディーゼル車の2〜3倍です。リチウムイオンバッテリーは8〜10年程度で容量が約80%まで低下します。
積載量や寒冷地での性能低下問題
バッテリーの重量により積載量が減少します。欧州ではEVトラックに2トンの上乗せが認められています。また、寒冷地では気温の影響でバッテリーの性能が低下し、航続距離が短くなる傾向があるため、使用環境に応じた対策が必要とされています。
ハイブリッドトラックとの比較|導入判断のポイント
ハイブリッドトラックも、脱炭素化への移行期における重要な選択肢です。
ハイブリッドとEVの違いと選び方
ハイブリッドトラックは、ディーゼルエンジンと電気モーターを組み合わせたシステムです。初期投資が比較的低く、航続距離の制約がありませんが、CO₂削減効果は20〜30%にとどまります。
長距離輸送と都市内配送での最適な車種選定
ICCTの分析では、短距離配送(1日200km未満)ではEVトラックが最もコスト効率が良く、中距離(200〜500km)ではハイブリッドとEVが拮抗し、長距離(500km以上)では現時点ではハイブリッドまたはディーゼルが有利です。
今後の法規制・環境基準を見据えた中長期的戦略
欧州では2030年までにトラックのCO₂排出を45%削減、2040年までに90%削減する目標を掲げています。段階的導入、ハイブリッド併用、充電インフラ投資、リース活用といった戦略が考えられます。
まとめ:EVトラック導入は"コスト"から"経営戦略"の時代へ
技術進化と政策支援により、「コストが高い」「航続距離が短い」といった課題は大きく改善されています。EVトラック導入は、企業の環境戦略・経営戦略の中核を担う投資として位置づけられつつあります。
導入判断のポイント:
- 短中距離配送・都市部運行: EVトラックが経済的にも戦略的にも優位
- 長距離輸送・インフラ未整備地域: ハイブリッドとの併用が現実的
- 補助金・リース活用: 初期コストの障壁を大幅に軽減可能
- 将来の規制環境: 2030年代に向けて、ゼロエミッション化は避けられない流れ
IEAの予測では、2030年までに世界の電気トラック販売シェアは大幅に拡大します。「いつ導入するか」という問いに対する答えは、もはや「今」です。技術は十分に成熟し、経済性も改善し、政策支援も整っています。持続可能な物流への転換は避けられない潮流です。その波に乗るか、取り残されるか。決断の時が来ています。